「ナカネさんは、どうして、安く売るの」
「うーん、うちは茶陶でも花器でもなく日常食器でやってるでしょ、手作り手画きで
ふだんに使って人の輪を結ぶ道具をつくりたいんや。だから買った土、電動ロクロ、
灯油窯で焼いて工房生産方式でやると・・・陶芸は土代も燃料費も安いからそれで
やっていけると・・・そう思ったンは『民芸』の考えに惹かれたからかなぁ、工芸
は苦しみ多いこの世を共に渡る暮らしの仲間、っていうの・・・若い時にはやられ
るでしょ。青臭い理想主義には。それで『工芸』でいいと決めたんや。美術工芸品
の作家にはなれへんもんね・・・ひとそれぞれ人(ニン)てあるでしょ、人間とし
ての持ち味というか・・・オレもともとナマイキやから・・・お茶人さんとかデパー
トの美術部とかオツキアイようせんしね・・・コレってお金持ちに対するいわれな
きヘンケンかなぁ。でも働いてた時に実際見てもいるしね、イロイロ・・・。
それで『工芸』は多産である、あじきなき反復に美がやどる、廉価でなくてはなら
ぬ・・・で独立4年目から工房体制で3人。今オレいれて5人、毎月給料60万づ
つ払ろてる・・・陶器まつりとか道端で売るのもヘーキ。工芸の本道はこっちやと
思もてるもん・・・こんなこと云うのは不遜、ゴーガン、負け惜しみって知ってる
けど・・・『座敷犬の栄華より野良犬の自由を』・・・そうウソブクしか無いなぁ」
売れない芸術家・もの作りのお決まりのグチ・・・。(書いててナサケナイ)
売れちゃうとトタンにこんな暗いハナシしなくなるんやけどね。
健康とクルマと資産運用と子供の学校と趣味ではじめたボンサイのハナシとかになる
んやろねぇ・・・
「工芸でいいじゃない」パクさんはいった。
「でもボクは安売りはしないよ」ウン、そうであるべきや!
「パクさん有名になってもぼくのコト忘れんといてね」
「ナカネさん、今度の事でぼくはどんなに小さくても自前でショップとギャラリーを
作らなきゃと思った・・・ソウルで。それで明日は友だちが知らせてくれた物件を
いくつか見に行くから帰れないと思う。仁寺洞(インサドン:ギャラリーが多いオ
サレなエリア)のちかくで韓式家屋に手を入れて・・・景福宮(キョンボックン:
李朝時代の王宮)にも近いところで・・・お金の面では観光でソウルに来る人に吹
きガラスをやってもらえる体験工房を併設して、ぼくが教えて次の日には持って帰
れるようにして・・・この計画うまく行くと思わない?」
「うんうん、行けそう行けそう!やっぱり景福宮あたりでいい画像とってソウルナビ
とかで紹介してもらって、日本でも体験工房は人気あるし・・・パクさんならまが
いモンじゃなくちゃんとした物つくらせてあげれるんやし、『冬のソウル 澄みきっ
た空気感を地上でたったひとつのガラスの器にこめて・・・』とかコピーつけてぇ、
ソウルにグルメとエステにくる日本の女の子にやってもらえればぁ・・・大手の旅
行社だって飛びつく飛びつく!」
「ナカネさんもこっち来てやらない?」
「エーッ!うーん。確かにっ、オモシロソー・・・ではあるんやけどぉ。うーん永源
寺町産地化計画も動き始めて来たトコやし。いまは無理。でもパクさん、いっしょ
にやれることはいろいろありそう!」
「ソウルが日韓だけじゃなくて、いろんな分野のアーティスト、工芸家の集まるハブ
になれたらと思うから・・・」
こんなふうにパクさんがいる夜には『絵に書いた餅』はどんどんとふくらんでいくの
でした。しょっちゅうソウルに行って(渋滞で二時間はかかる)るんでぼく一人の日
が多かったんですが、部屋に帰ってる日にはいっしょに夜遊びにも行きました・・・
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