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バリ小説
第一日 5月25日 クタ・レギャン
第二日 5月26日 チュルツ・バトゥアン・マス・サヌール
第三日 5月27日 ブノア、カパ・ベノ・サヌールの二泊目
第四日 5月28日 バトゥブラン・ウブド・ボナ


はじめに

 この旅行記のかたちをとったオモシロい読み物は、ぼくが97年の5月25日から
6月5日までバリにいるあいだに見たこと、聞いたこと、体験したことをもとに書ました。
まずはじめに全部が全部、ぼくが体験したことではなく、緻密に構成されたフィクショ
ンであることをお断りしておきます。ぼくの社会的立場、ぼくの小市民的家庭的幸福
をおもんばかって、読者のみなさんはくれぐれも作中人物 中川 啓と臆病な作者 
ぼく 中根 啓を同一視したり、混同したり、色メガネでみたり、カゲでヒソヒソ云
わんといてね。いかに中川 啓をとりまく状況が、ぼくのそれと酷似していても、こ
の旅行記はあくまでも、あくまでも、あくまでーもッ!、フィクションなんやからねっ。
頼むさかいズェータイッにぼくと作中人物・・・・。
 えっ、ちょっと、クドい?

 この文章を下記の二人にささげます。

 ベノの陶器工房の美少女、カディ・アリス・ツティと、
 ロヴィナビーチの更紗売り、ぼくの愛するカァトゥ・ランティに



   2000年5月10日    陶芸家 中根 啓














第一日 5月25日 クタ・レギャン

カリブクブクにはちかづくな
バリ個人旅行12日間

       第一日 5月25日
       クタ・レギャン




 デンパサール・グラライ空港には21:30についた。通関をすませて外にでると
多くの出迎え客、現地添乗員やホテルからのおむかえ要員、それと後発のサーファー
仲間をむかえにきた白人たちの前をとおりぬけてタクシーカウンターをさがした。金
をはらうとダベッてたドライバーの中から一人の兄ちゃんが呼ばれてそいつのボロ車
に乗せられた。この車がひどく臭う。

 心ぼそい・・・・。

 13年ぶり、韓国以来の海外、27才の大志をだいた青年も、いまやただのオジン。
ただただガイドブックだけがたよりの個人旅行。
 車はでっかい彫像のあるロータリーを左折してうす暗い夜の街をすっとばす。
 せまい街路。クラクション。得体の知れない屋台。たむろするバリの男たち。
暗い車内で必死にガイドマップで位置を確認してラヤ・クタ通りとパクン・サリ通り
の角で降りる。夜だとゆうのにジットリと汗がにじんでくる。
 ものの30秒もたたないうちに日本人カモ旅行者は悪名高いクタ・レギャン物売り
現地人の最初の攻勢にさらされる。
 「コンバンワ、ニッポンジン?ヤスイ。トケイ。ヤスイ。」
 うす暗い通りのうす闇の中、たむろしつつ座り込み、旅行者を見つけると、安香水・
パチ物の時計・安キーホルダーを売りつけにやってくる黒い顔の人達はうす気味悪かっ
た。

 「ノーサンキュー。ノーニード。」の連発とジェスチャーで攻勢をかわしながらプ
ニ・サリ通りに入る。すこしは明るくなったとゆうもののガイドマップを読みとるの
は一苦労。それにしても来る前に想像していたのよりひどく通りがせまい。クタ・レ
ギャンといえば世界中のサーファーが群れ集い、あまたのホテル、レストラン、ディ
スコが軒をつらねてさながら不夜城のごとく。たしかに通りの先レギャン通りの方を
眺むればあいてる店の数も物売りも夜間徘徊を楽しむ白人たちもおおくはなってくる
ようやが、パンタイ・クタ通りにしたって滋賀県のいなか、人口6700人のわが町
のスーパー、八百亀の前の旧のメインストリートと変わらんやないか。そんなせまい
とこにビッシリ違法駐車してるさかいに一方通行やのにこんなにダラダラ渋滞してん
ねん。京都の木屋町みたいや。それにこの歩道の鋪装のすべりやすいことと段差のた
かいこと。30cmはあるで。いちいちの店の前で上り下りがあるさかい歩きにくいこ
とこのうえない。さっきからなんべんすべってコケかけたかぁ。車椅子の人は暮らせ
んなあ。ゾウリで来たさかいヘタしたらケガすんぞ。物売り連中をかわしつつパンタ
イ・クタ通りの一筋手前、ひときわあやしい横丁に到着。

 外に出て物売りをかわしながら、ブンブン通る車のすきをねらってパンタイ・クタ
通りをわたると今度はタクシーの客引きが激しい。あいもかわらず「ノーニード.」
でやりすごしておいて今夜の宿をめざす。西友の中の旅行代理店でとっといた中級ホ
テル、ソル イン レギャン。こうゆうところ四十男らしく周到。ひさびさの海外、
アジア、はじめてのバリ、悪名高いクタ・レギャン、夜着。安宿にしろ中級ホテルに
しろ安全な宿を自力でみつけるのはけっこうシンドイ。そこで1泊目だけは日本から
予約しておいたのである。

 オーッと、あそこの銀細工アクセサリー屋はツアー予約もやってるみたいやぞ。
「エーッと、すんません。あしたシュノーケリングにいきたいんですけど。半日のツ
アーで・・・・。」へたな英語とピジン英語でやりとりして明日の朝9時半〜10時
にホテルにむかえにきてもらうことに。そのあいだにまたしても物売りが。店頭、て
ゆうても店先の歩道上で立ち話してるわけやから、しばらくは動けんと見てとった香
水売りのオッサンが話の合間合間、電話確認の間にうす汚れたショルダーバッグの中
からいろいろ出してこっちに突き出す。英語もインドネシア語も日本語もなし。顔見
たら左目がつぶれてた。

 オーッどんどんにぎやかになってきたぞ。店も明るいし外人も多い。まごうかたな
クタ・レギャンや。オッこの店はライブやっとんな。となりはディスコか。みんな外
人ばっかりやなあ。オージー(オーストラリア人)が多いと聞いてるけど、兄ちゃん
も姉ちゃんもオバハンもオッサンものっとんなあ。日本人て全然おらへんやんか。サ
ヌールかヌサドゥアへ泊まっとんのやろなあ。安全なええホテルとって。あっ、あの
カップル、日本人みたいやぞ。ふたりとも物売りにビビッとるぞ。手つないで逃げて
るにげてる。ダンナがしっかりしたらんとなあ。どんどん物売りも増えてきた。
「ノーサンキュー.ノーサンキュー.ノーサンキュー」
「ノーニード.ノーニード.ノーニード.」
「おんな?おんな?」「マリファナ?マリファナ?」「ニッポンジン?ドコイキマス
カ?マヤク?マヤク?」「タクシー?タクシー?」「ジェンブデ、センエン、キーホ
ルダー。ヤスイ、ヤスイ。」「トケイ、ミテ、ヤスイ。」
「ノーサンキュー.ノーサンキュー.ノーサンキュー」
「ノーニード.ノーニード.ノーニード.」
 えーぃ、うるさいっ!

 それにしても、どぉやぁ、着いて1時間しかたってないのに、英語も通じるし、
これやったら明日からもなんとかなりそうやぞ。
 おれもまだまだ、捨てたもんやないなあ。
 3度ほどたずねてホテルに到着。レセプションで書式に記入。

 中川 啓 40才 日本人 滋賀県在住 CERAMIST(陶芸家)

 デイパック、一つかついで部屋に案内される。ひろびろした敷地。トロピカルな植
物。おとしぎみの照明にうかぶ花ばな。2階建ての白いコテージの1階。
 シャワーをあびて、ベランダに出てタバコを1本吸った。
あたりは閑散としている。

第二日 5月26日  チュルツ・バトゥアン・マス・サヌール

 




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